『間違えられた男』(1956年・アメリカ)
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原題:The Wrong Man
出演:ヘンリー・フォンダ
ヴェラ・マイルズ
アンソニー・クエイル
ハロルド・J・ストーン
ネヘマイア・パーソフ
チューズデイ・ウェルド ほか
上映時間:1時間45分
【あらすじ】
妻ローズの歯の治療代を工面すべく、保険会社へと借金に来たバンドのベーシスト、マニーを見て、窓口係は非常に驚いた。以前同社を襲った強盗に瓜二つだったのだ。警察に連行されたマニーは、筆跡鑑定でも無実を証明できず、事態は彼にとって不利な方へと進んで行く。なんとか保釈にこぎつけ、証人を求めて奔走するマニーとローズだったが、証人2人はすでに死亡していた。打ちひしがれたローズの心は、恐怖と絶望で壊れて行くのだった……。
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1953年にニューヨークで起きた事件をもとに、銀行強盗に間違えられ、司法機関の強引な取り調べによって刑務所に送られてしまった男の、悪夢のような恐怖体験を描く。
無実をはらそうと逃走を図るヒッチコックお得意の虚構サスペンスとは一線を画す作品。監督自らが冒頭に登場し、「真実のストーリー」であることを告げている。鉄格子ごしの風景など、主人公の視点で構成されたカメラワークや、少ない台詞で無実の罪に混乱した悲壮感がリアルに描かれている。
ヒッチコック映画にしては珍しく、実話に基づく物語をドキュメンタリータッチで生々しく捉えたシリアスなサスペンス作品に仕上がっている。主人公が思いも寄らぬ状況に陥る"巻き込まれ型"サスペンスという点では他の多くのヒッチコック作品と共通しながらも、主役に演技派のH・フォンダを起用し、その内面を徹底的に深く掘り下げて追究したというのは、ヒッチコックの作品歴の中でもきわめて異色といえよう。また、撮影の名手R・バークスによる陰影に満ちたモノクロ画面、音の魔術師B・ハーマンの刻一刻と不安をあおりたてる映画音楽もすばらしい。
ジャンル:ドラマ
個人的満足度:☆☆☆★★