映画 #1217『クリーン、シェーブン』

 

『クリーン、シェーブン』(1993年・アメリカ)

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原題:Clean, Shaven

監督:ロッジ・ケリガン

出演:ピーター・グリーン
   ロバート・アルバート
   ミーガン・オーウェン
   ジェニファー・マクドナルド  ほか

上映時間:1時間19分

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【あらすじ】

ピーターは自分の頭に受信機、指に送信機が埋め込まれていると信じており、頭の中に流れ込んでくるノイズに常に苦しめられている。施設を出た彼は、里子に出された娘を捜すため故郷の町へ帰るが、幼児連続殺人事件を追う刑事から容疑者として目をつけられてしまう……。

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幻覚や幻聴に悩まされながらも娘を探し続ける統合失調症の男を、徹底的に抑制されたトーンで描いたサスペンスドラマ。主演は『ユージュアル・サスペクツ』『テスラ エジソンが恐れた天才』のピーター・グリーン。撮影監督としてフレデリック・ワイズマンに師事し、ミュージックビデオなどを手掛けてきたロッジ・ケリガンの長編監督デビュー作である。1993年に製作され、日本では96年に劇場公開。2021年8月、25年ぶりにリバイバル公開された。

 

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ノイズにまみれた唯一無二の映像表現で観る者を哀しき虚無に突き落とす衝撃の問題作。ロッジ・ケリガン監督は本作で世界的に評価され、ロックフェラー財団、全米芸術基金などからフェローシップを受け、世界最古の映画アーカイブであるジョージ・イーストマン・ハウスからは、今後の作品も含めて彼の全作品が保存対象に選ばれている。そのロッジ・ケリガンが初監督作として1993年に発表したのが、永久に人々の心を抉り遺す本作である。

徹底的に抑制されたトーンのなか映し出される主人公の目を覆う行動は、観る者に凄まじい疲労感を与え、観ること自体が拷問と言われたほどの衝撃的なインパクトを残す。観終えた後の切なさ、やりきれなさは一生脳裏にこびりつき、離れることはない。
主演に性格俳優として知られる『パルプ・フィクション』(94)、『ユージュアル・サスペクツ』(95)のピーター・グリーン。悪役を演じることの多いグリーンのキャリアにおいて、珍しい一作となっている。

 

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本作は1993年、米国コロラド州テルライド映画祭でワールドプレミア後、カンヌ映画祭の"ある視点"部門やサンダンス映画祭に正式出品されるなど、30以上の国際映画祭で上映。スミソニアン博物館群のひとつであるハーシュホーン美術館やニューヨーク近代美術館、そしてアメリカ精神医学会でも上映され、スティーヴン・ソダーバーグダーレン・アロノフスキージョン・ウォーターズといった監督や評論家たちから、忘れがたき表現性の高さを絶賛された。
日本では1996年にレイトショーのみで公開され、一部の人々の間でその悲惨さと哀愁が終始漂う陰鬱とした作品全体の雰囲気が話題となり、未だに語り継がれるも観ることができない"伝説的作品"となっていた。

 

本作は、心が死んでいる者と、そうでない者を通してこの世の不条理を見つめる、美しく鮮烈で、哀しく、残酷な一作である。

 

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ジャンル:スリラー

個人的満足度:☆☆☆★★