映画 #1184『ディリリとパリの時間旅行』

 

『ディリリとパリの時間旅行』(2018年・フランス、ドイツ、ベルギー)

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原題:Dilili à Paris

英題:Dilili in Paris

監督:ミッシェル・オスロ

出演:プリュネル・シャルル=アンブロン
   エンゾ・ラツィト
   ナタリー・デセイ  ほか

上映時間:1時間34分

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【あらすじ】

ベル・エポックの時代のパリ。ディリリは、どうしても外国に行ってみたくて、ニューカレドニアから密かに船に乗りパリにやってきた。

開催中の博覧会に出演し、偶然出会った配達人のオレルとパリで初めてのバカンスを楽しむ約束をする。その頃、街の人々の話題は少女の誘拐事件で持ちきりだった。男性支配団と名乗る謎の集団が犯人だという。ディリリはオレルが紹介してくれる、パリの有名人たちに出会い、男性支配団について次々に質問していく。洗濯船でピカソに"悪魔の風車"に男性支配団のアジトがあると聞き、二人は向かうが、そこでオレルは狂犬病の犬に噛まれてしまう。三輪車に乗ってモンマルトルの丘から猛スピードで坂を下り、パスツール研究所で治療を受け、事なきを得る。オペラ座では稀代のオペラ歌手エマ・カルヴェに紹介され、彼女の失礼な運転手ルブフに出会う。

ある日、男性支配団がロワイヤル通りの宝石店を襲う計画を知った二人は、待ち伏せし強盗を阻止する。その顛末は新聞に顔写真入りで大きく報じられ、一躍有名になったディリリは男性支配団の標的となり、ルブフの裏切りによって誘拐されてしまう。ディリリはオレルたち仲間の力を借りて男性支配団から逃げることができるのか? 誘拐された少女たちの運命は……?

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キリクと魔女』『アズールとアスマール』などで知られるフランスアニメーション界の巨匠ミッシェル・オスロ監督が、19世紀末から20世紀初頭のベル・エポック期の美しいパリの街を舞台に描いた長編アニメーション。第44回セザール賞で最優秀アニメ作品賞を受賞した。

 

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本作は、アニメーションで独特の美しい世界を表現するフランスの鬼才ミッシェル・オスロ監督による、パリへの想いに溢れた宝石箱のような作品だ。ニューカレドニアからやってきた主人公ディリリが、最初の友人オレルとともに、この時代を彩った多くの天才たちと出会い誘拐事件の謎を解いていく。

夕暮れのヴァンドーム広場、着飾った人々の集うオペラ座、チュイルリー公園や凱旋門など息をのむほどに美しいパリが描かれる。この風景は監督自身が4年間撮りためた写真をもとに作られ、黄金が滴り落ちるようなオペラ座の大休憩室の豪奢な輝きは、当時の華やかさそのままに再現されている。

19世紀末から20世紀初頭の、自由闊達で華やかなパリは、また世界中から多くの才能を惹きつけた時代でもある。映画に登場する著名人は100人を超える。女性として、母国では受けることのできなかった教育を求めてパリに来た化学者マリ・キュリー、細菌学者パスツールや、洗濯船に集う画家ピカソや、マティスプルーストアンドレ・ジッドら作家たちが登場する。音楽家のサティが「グノシエンヌNo.1」をピアノで弾き、ロートレックが描いたラ・グーリュやショコラが踊り、オペラ歌手エマ・カルヴェはドビュッシーの新作オペラ《ペレアスとメリサンド》の曲を歌う。街の至るところにミュシャのポスターが貼られ、サラ・ベルナールエドワード皇太子が、ロワイヤル通りの宝石店に宝飾品を求めにやってくる。エマ・カルヴェの衣装を作るのは「キング・オブ・ファッション」とも称されたファッション・デザイナーのポール・ポワレだ。

室内装飾はオルセー美術館やマルモッタン美術館などの協力を得て、監督がその高い美意識によって選んだ調度品で再構成された。ムーラン・ルージュアイリッシュアメリカン・バーでの自由で洒脱な雰囲気は当時にタイムトリップしたかのような気分にさせる。

 

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オスロ監督は一貫して性別や肌の色、年齢、宗教などで人を区別せず、様々な人種が登場する映画を作り続けてきた。この作品では女性の台頭が目覚ましかった時代にあって、それを快く思わない悪者に虐げられる女性たちを描いている。主人公のディリリは、フランス人とニューカレドニア人との混血で、たったひとりでパリにやってきて、人々と出会うことで、かけがえのないものを見つけていく。路上で暮らす浮浪者に出会っても「いつか貧しい人の役に立ちたい」と心に決め、未来への力強い希望をもって困難に立ち向かう。「人口の半分のどちらかが、もう一方を踏みにじるのは閉じた社会だ」と監督はいう。世界中でテロが頻発し、人々を不安にさせる今という時代だからこそ、自由で平等な文化を生み出しそれを享受することの重要性をこの作品は強く訴えかける。

 

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音楽は『イングリッシュ・ペイシェント』(1997)でアカデミー賞最優秀作曲賞を受賞したガブリエル・ヤレドが『アズールとアスマール』(2006)に続き、本作の音楽を担当した。初期の段階から製作に参加し、劇中で何度も歌われる「太陽と雨」を始め美しい旋律を生み出した。現代世界最高のオペラ歌手の一人ナタリー・デセイがオペラ歌手エマ・カルヴェの声を担当し、その歌声が映画の美しさをさらに高めている。

 

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ジャンル:アニメ

個人的満足度:★★★★★