『アメリカン・スプレンダー』(2003年・アメリカ)
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原題:American Splendor
監督:シャリ・スプリンガー・バーマン
ロバート・プルチーニ
出演:ポール・ジアマッティ
ホープ・デイヴィス
ジェームズ・アーバニアク
ジュダ・フリードランダー
アール・ビリングス
ジェームズ・マキャフリー
マデリン・スウィーテン
ハーヴィー・ピーカー
ジョイス・ブラブナー
トビー・ラドロフ
上映時間:1時間41分
【あらすじ】
パっとしない外見に加えて、2度目の妻にまで逃げられ、冴えない日々を送る病院事務員のハーヴィー。ある日、彼は現状を打破しようと自分の日常をコミックにすることを思いつく。友人の人気作家に絵を描いてもらって完成した作品は「アメリカン・スプレンダー」と名付けられ、たちまち大人気に。やがてハービーは熱心な読者と意気投合して結婚。ようやく人生が好転しかけたハービーだったが、思わぬ出来事が彼を襲うのだった……。
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自らの冴えない毎日をコミックに描いて人気を博したハーヴィー・ピーカーの半生を、シニカルな中にも温かな眼差しをもって描いた実話映画化ヒューマン・コメディ。2003年サンダンス映画祭グランプリや本年度アカデミー賞脚色賞など全米の賞レースを制した、映画と現実と漫画が一体化した話題作。
オハイオ州クリーヴランド在住、冴えない中年のジャズ・オタク、ハーヴィー・ピーカーの人生を綴った物語。これを"物語"と呼ぶことすら正しいのかどうか。映画の原作である同名コミックは、ハーヴィー自身が主人公となって、どん詰まりの日常や周囲で起こる些細な出来事を淡々と(かつ、生々しく)描いたものだからだ。「どこかのヒーローではなく、おれみたいな男のことが描かれるべきだ」と、彼はレコード収集を通じて若い時分に知り合ったコミック作家ロバート・クラムに訴えた。その結果、彼の書いた原作を気に入ってクラムが絵を付けた。それから彼は、国立病院での仕事をずっと続けながら、三度目の結婚をし、テレビ出演で人気者になり、癌を患い、ひょんなことから養女を得た。そうしたことが、すべてコミックに描かれ、もう30年近くにわたって出版され続けているのだ。
では、この映画は、行き場のないひとりの男が創作を通じて救われる、なんて間抜けでのんきなオタク救済劇を描いたものなのだろうか。それは違う。映画のナレーションを務め、画面にも幾度となく登場する"現実のハーヴィー"は語る。「コミックを作ることで得たものは何もない」と。奇妙な名声は得たかもしれないが、相変わらず寂れた地方都市に埋もれて暮らしている。偏屈で融通も効かず、混乱を抱えた性格もそのままだし、達観した人生訓も永遠に得られない。家族を得てさえも、絶望的な孤独は解消されはしない。だが、思わず娘の手を強く握りすぎてしまう、といった孤独感こそが読者や観客と響き合う。安っぽい共感を拒否しながら、温かみを失わない演出がとてもいい。
監督を務めるのは、シャリ・スプリンガー・バーマンとロバート・プルチーニ。二人は夫婦で、これが初めての長編映画である。
ジャンル:伝記
個人的満足度:☆☆☆☆☆