映画 #986『バニシング・ポイント』

 

バニシング・ポイント』(1971年・アメリカ)

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原題:Vanishing Point

監督:リチャード・C・サラフィアン

出演:バリー・ニューマン
   クリーヴォン・リトル
   リー・ウィーバー
   カール・スウェンソン
   ディーン・ジャガー
   スティーブン・ダーデン
   ポール・コスロ
   ボブ・ドナー
   ティモシー・スコット
   ギルダ・テクスター
   アンソニー・ジェームズ
   アーサー・マレット
   ヴィクトリア・メドリン
   シャーロット・ランプリング

上映時間:1時間46分

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【あらすじ】

陸送屋のコワルスキーは、70年型ダッジ・チャレンジャーをデンバーから1200マイル離れたサンフランシスコまで15時間で届けるという無謀な賭けをした。爆走するその車を追って各州警察が追跡を開始。警察無線を傍受した盲目の黒人DJスーパー・ソウルは、ラジオでその模様を実況中継する。大勢の野次馬やメディアが押し寄せる中、コワルスキーは、ブルドーザーが道路封鎖するバニシング・ポイント<消失点>に向かってアクセルを踏み込んでいく……。

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警察の追跡を振り切りながら時速200キロで暴走する男の姿を鮮烈に描き、アメリカン・ニューシネマを代表する1作となった傑作カーアクション。当時まだ無名だったバリー・ニューマンが主演を務め、『荒野に生きる』のリチャード・C・サラフィアンがメガホンをとった。脚本を担当したギレルモ・ケインという人物については正体不明であったが、後年にギリェルモ・カブレラ=インファンテであったことが判明している。

 

他愛のないことを切っ掛けとして、理由も見えず、ただひたすら車を走らせる男を描いた本作は、アメリカン・ニューシネマに分類される。権力への反抗と現実に敗北する者たちを感傷的に描いた多くのアメリカン・ニューシネマとは一線を画し、作品全体の乾き切った精神性に加え、遡行と跳躍によって非直線的に描かれる【時間】という概念の表現を革新、かつてない高みに達した鮮烈・孤高の雄篇だ。現実に対する底知れぬ虚無と諦念を抱え、速度の限界に挑むコワルスキーの姿は、観る者をスピードの陶酔と快楽の果て、時空も生死も超越した無限の境地へと誘っていく。劇中にタイムリミットの設定があるため、たびたび主人公の現在地と時刻が字幕で挿入され、さらに主人公の過去と現在が入り混じるフラッシュバックの手法が多用されている。

また、ロードムービーとして、1970年代当時のアメリカでの特異な風俗・文化・ムーブメントがシークエンスの中で描かれた。日本では第45回(1971年度)キネマ旬報ベストテンで第5位に選ばれており、アメリカでも現在にいたるまでカルト的な人気がある。

 

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1997年にはプライマル・スクリームが本作にインスパイアされた同名アルバム「バニシング・ポイント」と、主人公の名前を冠した先行シングル「コワルスキ(Kowalski)」を発表している。また、2007年製作のクエンティン・タランティーノ監督の映画『デス・プルーフ in グラインドハウス』の後半部では、主要登場人物が、本作と主人公への熱い想いを語り、白の70年型ダッジ・チャレンジャーの中古車によるカー・スタントが繰り広げられた。ガンズ・アンド・ローゼズの楽曲「ブレイクダウン」(ユーズ・ユア・イリュージョン II収録)でもセリフが一部引用されている。

 

ラテン・アメリカ文学特有の<魔術的リアリズム>による、オープニングとエンディングが「メビウスの輪」のように繋がった円環的な構成、そして魂の不滅を描いたこの作品の主題に改めて目を向ければ、<カー・アクションの頂点><史上最高のロードムービー><カウンターカルチャー映画の重要作>と謳われてきたこの作品が、それだけでは済まされない画期的な作品だったことが納得されるだろう。

 

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ジャンル:アクション

個人的満足度:☆☆☆☆☆