『ヘンリー』(1986年・アメリカ)
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原題:Henry: Portrait of a Serial Killer
監督:ジョン・マクノートン
出演:マイケル・ルーカー
トム・トウルズ
トレイシー・アーノルド ほか
上映時間:1時間23分
【あらすじ】
服役中に知り合ったオーティスと同居しているヘンリーは、害虫駆除の仕事をしながら日課のように淡々と殺人を繰り返していた。そんなある日、オーティスの妹・ベッキーが彼らの家に転がり込んでくる。これをきっかけに、ヘンリーの日常は崩れ始め……。
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300人以上もの女性を殺害しアメリカ犯罪史上にその名をとどろかす実在の殺人鬼ヘンリー・リー・ルーカスを描いた作品。日本でのビデオタイトルは『ヘンリー/ある連続殺人鬼の記録』。
1986年のシカゴ国際映画祭で一度公開されたものの、ホラー映画を望んでいた映画会社によって4年間お蔵入りにされていた。
ジョン・マクノートンの監督デビュー作で、マクノートンは本作のビデオをマーティン・スコセッシに送ったことがきっかけで、ロバート・デ・ニーロ主演映画『恋に落ちたら…』の監督に抜擢された。
犯罪史上最悪の連続殺人鬼、ヘンリー・リー・ルーカス。その名はエド・ゲイン、ジョン・ゲイシー、テッド・バンディらと並び、最も有名なシリアルキラーとして人々に記憶されている。11件の殺人で起訴され死刑を宣告されるが、彼の毒牙にかかった被害者は300人とも――ヘンリーの自供を信じるのなら――3000人とも言われている。自らが犯した事件の捜査班のメンバーとして、獄中からアドバイスを出していたというエピソードを持つヘンリーは、『羊たちの沈黙』のハンニバル・レクター博士のモデルのひとりと言われ、現在も数多く作られているシリアルキラームービーに、彼の存在がどれほどの影響を与えたか計り知れない。
この世紀の殺人鬼の日常をドキュメンタリータッチで描いた傑作として、カルト的な人気を博しているのが本作である。世界三大ファンタスティック映画祭と呼ばれるブリュッセル国際ファンタスティック映画祭、ポルト国際映画祭、シッチェス・カタロニア映画祭で各賞を受賞、ヨーロッパでも高い評価を得た。
圧倒的な存在感で殺人鬼ヘンリーをリアルに演じ切ったのは、『クリフハンガー』で注目を集め、最近でも『ジャンパー』『スリザー』など話題作への出演が相次ぐマイケル・ルーカー。リアルな演技が静かな恐怖を感じさせる。彼の相棒役には『ハロウィン』『マーダー・ライド・ショー』シリーズなど、ロブ・ゾンビ作品で活躍するトム・トウルズが扮している。彼らが行う殺人や、その被害者の姿が淡々と映し出される様はシュールですらある。視覚的な刺激を伴うスプラッタ映画の怪物的殺人鬼とは違い、殺人という行為の権化であるヘンリーは、私たちの精神を締め付け、心を静かに恐怖で満たしてゆく。
ジャンル:スリラー
個人的満足度:☆☆☆☆☆